「上を目指したいと思った夢中人」
【にのへ夢中人プロフィール】
- お名前:
- 長島まどかさん
- ご出身
- 埼玉県上尾市
- お仕事
- 漆掻き職人
- 夢中コト:
- 漆掻きに関すること、織田信長公に関連する史跡めぐり、グッズ集め、飼い猫たちのお世話
- 夢中度合い:
- ★★★★★MAX
「仕事」の捉え方は人によって様々。
生きていくために必要であることはほとんどの人に当てはまる一方で、その「仕事」が憧れや夢だったり、社会的意義を見出したり、あるいは国民の義務を守ってもらうための「仕事」だったりと、人の数だけ「仕事」をどう捉えているかが異なる。
今回の夢中人は仕事で「上を目指したい」から選んだという、漆掻き職人の長島まどかさんだ。
——文化財が好きで、化粧筆の職人になる
広島で、筆の全国シェアがなんと8割以上という日本一の現場で化粧筆の職人として働いていたという長島さん。
メーカーからの受注で受ける仕事は、品質においては一定のレベルをクリアすれば十分なわけだが、もっと上を目指したいという気持ちを抱えながら過ごしていた。
「元々文化財が好きで」が高じて伝統工芸関連の仕事を選んだというが、手に職をつけるために最初に行ったのがフラワーアレンジメントの専門学校だったのだそう。絵を描くのが得意だったため「絵付け」、それから「伝統工芸」「後継者」というキーワードから広島県熊野町の研修制度へと繋がる。辞めることになった仕事は、嫌いだったわけではない。「むしろ、大好きだった」と振り返る。
——どこでやるか、ではなく、何をするか
そんな折りテレビ番組で「文化財の修復に国産漆が足りない」ということを知る。
仕事で抱えていた「もっと、上を目指したい」という思いが重なり、二戸市で募集していた地域おこし協力隊へ応募する。
子供の頃の修学旅行で観た「日光東照宮」を修復するための漆を作る仕事——。上を目指すための仕事ならいくらでも、例えば広島や出身地の埼玉でも探せたのではないだろうかという問いに「場所ではありません。漆掻きがしたかったから来ました」とはっきり答えてくれた。文化財修復に使われるような仕事がしたい、もっと上を目指したい。その思いを叶えるべく4年前に自分を新たなスタートラインに置いたのだ。
どこでやるか、ではなく、何をするか。
長島さんの思いは空気を振動させるような気迫がある。
——漆掻きの仕事
長島さんは200本の漆の木を4日間で掻く。
1週間の残りの3日は木を休める日なのだそうだ。
漆掻きの期間は6月から10月下旬頃まで。
木の皮を軽く剥いで、カンナで傷を付ける。そこへ出てくる「漆液」をヘラで集める。
漆は傷を付けられたところから出てくる樹液だ。
こう書けば漆は「採るもの」と言えそうだが、そう単純な話ではない。漆の木と言っても、人と同じで性質がそれぞれ異なるのだそうだ。硬いや柔らかい、太いや細いといったものから、漆が出る早さなども木によって異なる。
木の反応を見て搔き方や考え方を変える(木に合わせる)ことで、満足のいく漆を採ることができる。
さらに、天気はどうか、気温や、雨はいつ降ったかも考慮する。
だから狙った通りの反応を木が返してくれたらそれは嬉しいことに繋がる。木のことをちゃんと理解しているという、自分の技術に木が応えてくれるから。
逆に、漆がちゃんと出ない(量が少ない)と、自分の行動のどこがいけなかったのかを見直すことになる。
漆の木を理解することは、自然と向き合うことだけではなく、自分の技術を高める事に繋がる。
自分と真摯に向き合うこと。
「(漆が出ないのを)木のせいにして自分が頑張らないと、漆の木も人(漆掻き)のせいにして頑張らない、自分を客観的に見られる仕事だと思う」
彼女の言葉には、自分が作るものの品質を高めることやスピードを早めるといった技術向上だけではなく、そこに向き合う自分の姿勢をも精進させたいという意気込みを感じる。
——顔に出ていたこと
浄法寺で仕事をするようになったある日、日光へ行った。
おみくじを引いたら小吉だったものの「今の仕事が一番いい」とあり、嬉しくて友達に見せまくった。
母親に「今の(漆掻きの)仕事が向いていると思った」と言われて安心した。
前の職場の同僚には「今の表情がとてもいい」と言われて嬉しかった。
そんなエピソードを教えてくれる彼女の表情の素敵なことといったらこの上ない。
——大の「信長」好き
織田信長が居城にしていた城は全て廻ったという大の信長好きの長島さん。お祭り好きな、おもてなしの精神を持つその人柄に惚れ込んでいるのだそう。普段から様々な事を考えていて判断が早いという信長の性格を見習いたいと思っている。なんと自身の誕生日を小牧山城で過ごしたこともあるのだとか。城巡りの流れで、100名城スタンプラリー、続100名城スタンプラリーに挑戦中だ。
実家に帰省したときは、「きよまさ」「おとわ」と名付けられた飼い猫たちがお供をした。
次の城巡りの時の3人(1人+2匹)の会話はどうなるのだろうと興味が膨らむ。
——二戸の印象
山が近い!コロコロと笑う長島さん。
「空気もきれいだし、交通の便も良いです」
「あと、昔は漆掻きの人が出稼ぎで来ていたこともあり、言葉のアクセントが違う私にも違和感なくとても親切にしてもらってます。埼玉に子供とか親戚が住んでいるという人が多いらしく、私が埼玉出身ですというと高確率で「埼玉のどこ?」と聞かれます」野菜やお米をもらう事もあるのだそうだ。
埼玉と二戸は不思議な縁で繋がっているのかもしれない。
「人と人との距離感が丁度いいです」
——夢中であれ!
現在、国内で流通している漆の9割以上が輸入によるもので、国産漆と呼ばれるものはわずか数%に過ぎない。
その約7割が、二戸地域を中心に生産されている浄法寺漆である。ここで作られる漆が世界遺産である中尊寺金色堂、日光東照宮、金閣寺などの修復に使われるのである。
インタビューを通して、長島さんの仕事の「夢中度」がビリビリと伝わってくる。
そんな長島さんに「仕事としての漆掻きの魅力をこれからの人達に伝えるとしたら、なんと言いますか?」と聞いてみた。すると意外にも厳しい言葉が返ってきた。
「習い事感覚でやる事ではないと思います」
流行廃りの軽い気持ちでやっても続けられない。
真剣だからこそ厳しくありたいという長島さんの率直な気持ちが見られる。
もちろん人を寄せ付けまいとして言っているわけではない。
己の骨太さに自信がある人、我こそはと思う人ほどチャレンジして欲しいと願うからこそ「文化財の修復」という尊い仕事のポストが用意されているのだ。
そして自分の願いを叶えた長島さんの姿が、今ここにある。